第21章 彼の不機嫌

伊原綾音は冷ややかに笑った。

「ほんと、見せつけてくれるよね。恥知らずは、どこまで行っても恥知らずだって」

二秒ほど間を置いて、自嘲気味に息を吐く。

「……もういい、認める。だからあとで行く。二つとも片を付けてやる」

そう言い切るなり、相手の返事も待たずに通話を切った。

切ったあと、伊原綾音は自室へ戻り、いちばん良い服を選ぶ。淡いメイクも施した。北野隆也との関係に終止符を打つために――最高の状態で向かう。

伊原綾音は新しく作り直した契約書を手に、雲峰へ向かった。

受付を抜けて足を踏み入れた瞬間、社内の視線が一斉に集まる。あまりに整えた装いに、誰もが息を呑んだ。

それをいち早く...

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