第32章 杏ちゃんの身の上

まるで血だ。

「誰が投げたのよ!」

北野の母は頬に伝う血を乱暴に拭いながら、狂ったように喚き散らした。

澄川奏斗が外へ出てきた。鋭い目つきで北野の母を睨みつける。北野の母は彼を視界に捉えるなり、指を突きつけた。

「あなたでしょ? 投げたのは!」

澄川奏斗は答えない。

北野の母が詰め寄り、手を振り上げた――その瞬間。

どこからともなく現れた、がっしりした体格の大男が、容赦なく蹴り飛ばした。北野の母の肥えた身体がどさりと地面に叩きつけられる。

「……ひ、人殺しよぉ!」

北野の母はいつもの泣き喚き芸を炸裂させた。だが、見物していた保護者たちは彼女の本性をはっきり見てしまい、冷やや...

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