第54章 大人のゲーム

伊原綾音はきょとんとしたまま、目の前の男を見上げた。顔には意味ありげな笑み。前に彼の車の中で清宴バーの件をはっきりさせてからというもの、言葉の端々でずっと際どく距離を詰めてくる。

まだ離婚はしていない。たとえ本当に離婚したとしても、彼と大人の男女めいた駆け引きをするつもりはない。ここで、きちんと線を引くべきだ。

両手でコップを包み込み、綾音はうつむいて一口水を含んだ。真正面から射抜くような視線を避けるようにして、静かに口を開く。

「澄川社長、こういうことはあまり何度も言いたくないんですが、どうもずっと誤解なさっているみたいで」

そこまで言ってから、彼女はまっすぐに澄川琉生の目を見た。...

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