第56章 便利屋か

伊原綾音はスマホを握りしめたまま、書斎の中を落ち着きなく行ったり来たりしていた。だから澄川琉生から電話が入った瞬間、ほとんど反射的に通話ボタンを押した。

「澄川社長……」

「何か用か」

受話口の向こうから聞こえてきたのは、低く、感情の起伏をまるで感じさせない声だった。

伊原綾音は二秒ほど黙り込み、それから意を決して口を開く。

「澄川社長、岩坂さんは北野隆也と別れたんでしょうか」

「そんなくだらないことを、なんで俺に聞く」

声は冷たく、刺々しい。

伊原綾音だってわかっている。こんな細かい話を彼に尋ねるのは、彼の立場からすれば筋違いだ。けれど、二人のあいだには取引がある。だからこ...

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