第79章 今を楽しむ

伊原綾音は淡々とした表情のまま言った。

「理解してます。私も今は大丈夫ですし、気にしないでください。みなさん、早く行って」

一同は彼女が本当に怒っていないとわかると、ほっとした様子で去っていった。人影が消えるのを待って、伊原綾音はスマホを取り出し、澄川琉生にメッセージを送る。

『ここ、人が多くてうるさいです。車、少し先の角まで回して。私、歩いて行きます』

澄川琉生もその意図を汲んだのか、車は料亭・栄尚から離れ、指定の場所で待っていた。

だが、伊原綾音が乗り込んだ瞬間から、体が小刻みに震えている。それが澄川琉生の癇に障った。

目を閉じていたはずの澄川琉生が、ふいに瞼を上げる。底なし...

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