第89章 胸に飛び込む

翌日の午後三時。伊原綾音のもとに一本の電話が入った――明日、父に会えるという。

よりにもよってその時間帯は、美術館の最終稿の確定会議と重なっている。少し考えた末、綾音は会議を後ろへずらすことにした。最終稿の選定は澄川琉生が行う。だからこそ、彼には言わなければならない。

オフィスの椅子に腰を下ろした綾音はスマホを取り出し、澄川琉生に電話をかけて休みを申し出た。用件を告げた途端、向こうがふっと黙り込み、やがて問いが落ちてくる。

「急に休みって、どうした」

綾音は一瞬だけ言葉を選ぶ。とはいえ、彼の護衛が自分についている以上、行き先はどうせ後で知られる。隠す意味はない。

「……父に会いに行...

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