第9章 天才少年

伊原綾音は愛らしい子どもを見つめながら、亡くした息子のことを思い出してしまい、目の奥にふっと陰りを落とした。

あのとき彼女は双子を産んだ。だが分娩が長引き、男の子は出てきたときには息をしていなかった。残ったのは杏ちゃんだけ。

「澄川奏斗くん、お迎えが来たよー」

先生の声が飛ぶ。

伊原綾音は胸の内をしまい込み、にこりと笑った。

「ほら、早くおうちに帰りなさい」

小さな男の子はすぐには動かず、まず杏ちゃんに手を振って別れを告げた。最後に伊原綾音を見上げる。その一瞬の視線が、名残惜しさをはっきりと物語っていた。

伊原綾音は微笑みながら、澄川奏斗が少し年配の男性に連れられて去っていくの...

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