第90章 胸が痛む

伊原南は伊原綾音のことをよくわかっている。綾音はそう簡単に泣くような娘じゃない。こんなにも胸が裂けるように泣くなんて、よほどの悔しさを飲み込んできたに違いない。

伊原綾音は話がここまで来た以上、隠しても仕方がないと観念した。俯いたまま、ぽつりと言う。

「……お父さん。私、離婚したの」

伊原南の湯呑みに茶を注ぐ手が止まった。すっと表情が冷える。

「離婚? どうして急にだ。あいつが何かしたのか?」

伊原綾音は両手で顔を覆い、嗚咽を押し殺すように言った。

「お父さん……私が悪いの。あのとき、あなたの言うことを聞かなかったから……」

伊原南はすぐに湯呑みを置き、背筋を正した。声は低く、...

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