第99章 自分が代わりに

伊原綾音が自分からキスしてきたのは、これが初めてだった。普段の澄川琉生は、彼女に何かするどころか、言葉が少しでも生々しくなるだけで、彼女は即座に「私たちには関係ない」と線を引く。

それが今、向こうから口づけてきた。つまり――追い詰められている。

澄川琉生はその焦りを察し、からかう気配を消して彼女を抱き寄せた。唇の端にそっとキスを落としながら言う。

「相手が橘川家でも久岡家でも関係ない。子どもは必ず、おまえのところへ連れて戻す」

伊原綾音はほっと息を吐き、こくりとうなずいた。

二人は部屋を出て、ホテルの外へ。時刻はすでに五時過ぎで、世間はちょうど退勤の時間帯だ。だが澄川琉生は会社へ戻...

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