第5章
人波の絶えない銀座の街角に立ち、私は顔を上げた。絶え間なく行き交う車列の向こう、通りの反対側に立つ藤原村矢の姿が見えた。
仕立ての良いダークカラーのトレンチコートを纏い、両手をズボンのポケットに突っ込んだまま、彼は雑踏を貫くように私を見つめている。
これほど離れていては彼の表情までは窺えない。ただ、その視線だけが実体を持つかのように、私に突き刺さっていた。
「どうしてだ?」
電話の向こうから、彼の低い声が聞こえた。
彼が訊いているのは、別れの理由だ。
この関係を終わらせると決めた瞬間から、彼にそう問われることは分かっていた。
だが、いざその時を迎えると、私は最もあ...
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