第115章

「紗月……」

九条湊はごくりと唾を飲み込み、救急処置室の中にいる母子への不安を無理やり胸の奥へ押し込めた。数歩で一ノ瀬紗月の前まで詰め、心配しているふりの顔を作る。

「大丈夫か? スタジオで事故があったって電話が来て……肝が冷えた」

そう言いながら手を伸ばし、紗月の手を取ろうとする。だが視線は彼女の肩越しに逸れ、救急処置室の上で赤く点灯するランプへ吸い寄せられていった。

――あの中にいるのは、九条家の嫡男になるはずの子だ。

もし何かあれば、この数か月の我慢も算段も、すべて水泡に帰す。

紗月は気づかれないほど自然に身を引き、触れられるのを避けた。熱に浮かされたように焦りながら、それ...

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