第116章

彼は声を潜め、視線の端で一ノ瀬紗月をがっちり捉えた。何か勘づかれたら終わりだ。

だが一ノ瀬紗月は、ただ冷ややかに二人を見下ろすだけ。指先はスマホの画面を滑るように走り、ほとんど見ずに文字を打ち込んでいく。

――九条グループ総裁の義妹が九条家の血を宿し、病院で緊急搬送。九条百合子が『子ども優先』を言い放った。

そんな爆弾級のタレコミが、懇意にしているゴシップ媒体へ一斉に送信された。

ほどなくして、廊下の向こうからどっと足音が押し寄せる。ざわめきに混じって、カメラのシャッター音がけたたましく弾けた。

「九条社長! 中で救急処置を受けてる妊婦さん、お腹の子は本当にあなたの子なんですか!」...

ログインして続きを読む