第11章

写真の背景は私立病院のVIP個室。九条湊はベッド脇にきちんと正座し、身を少しだけ乗り出して、綿棒で一ノ瀬美琴のひび割れた唇を丁寧に潤していた。

男の横顔は強張り、瞳の奥にあるのは――一ノ瀬紗月が一度も見たことのない、心配と焦りと、言葉にしがたい複雑な感情。

その写真の下には、ずらりと得意げな文面が続いていた。

「お姉ちゃん、見えた? 湊が私と赤ちゃんのことでどれだけ緊張してるか。今日わざわざ彼を連れ出して昔の思い出をなぞったところで、何の意味があるの? 男が欲しいのは未来、跡継ぎ。あんたの惨めな過去なんかじゃない。身のほど知らずに私と張り合おうなんて思わないで。勝てるわけないでしょ」

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