第121章

神谷蓮は淡々とした表情のまま、九条湊が一ノ瀬紗月の手首を掴んでいる手元へ視線を滑らせた。瞳の奥に、ひやりとした冷気が差す。

一ノ瀬紗月は気づかれないように手を引き抜き、平然と言った。

「湊が来たなら、私は先に彼と帰る。神谷蓮、今日は助かった。ありがとう」

その、温度のない「神谷蓮」という呼び方が、九条湊の耳には棘みたいに刺さる。

だが今は噛みつけない。湊は怒りを喉の奥へ押し込み、ジャケットを脱ぐと半ば乱暴に紗月へ被せ、肩を抱くようにして外へ連れ出した。

車椅子の一ノ瀬美琴は、完全に視界の外だった。

美琴は、九条湊が紗月を庇いながら去っていく背中を見つめ、嫉妬で爪が掌に食い込むほど...

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