第123章

「紗月!」

九条湊が切羽詰まった声で呼んだ。だが返ってきたのは、病室のドアが容赦なく閉まる音だけだった。

空っぽになった掌を見つめた瞬間、胸の奥から恐怖が濁流みたいに押し寄せる。

一ノ瀬紗月の目は、取るに足りない他人を見るそれだった。怒りも、詰問もない。ただ、徹底した無関心。

――本当に、俺から消えるつもりなのか。

九条湊は奥歯を噛みしめた。不安と苛立ちが眼底で渦を巻き、両手がぎゅっと拳になる。

紗月が出て行って間もなく、病室の扉がまた押し開けられた。

入ってきたのは一ノ瀬美琴だった。ゆったりしたマタニティワンピースに身を包み、保温ポットを提げて、慎重に足を運ぶ。顔色はまだ青白...

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