第120章

九条湊はごくりと唾を飲み込み、探るように椅子を引いて腰を下ろした。わざと軽い調子で笑ってみせる。

「紗月、寝る前なのに、こんなに作ったのか」

一ノ瀬紗月は背を向けたまま、アイランドキッチンで果物を切っていた。

その言葉にも振り返らず、声は凪いだ水面みたいに平らだ。

「最近、付き合いが多いでしょ。胃が弱いのにお酒まで飲んで。青菜は肝臓にもいいし、あっさりしたほうが体が楽。……嫌なの?」

くるりと向き直り、切り分けた青りんごの皿をテーブルに置く。視線はまっすぐで、澄んでいて、探りの色など欠片もない。

九条湊の張り詰めていた神経が、ふっとほどけた。――そうか。俺の体を気遣って、ただそれ...

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