第128章

一ノ瀬紗月は、あの男の薄っぺらい作り笑いをこれ以上見る気にもなれず、踵を返して廊下の突き当たりにある客間へ向かった。

九条湊が大股で追いすがり、客間の戸口に手を突いて進路を塞ぐ。

――まったく。こいつはただの意地だ。

九条グループの資金繰りは火の車。税務署の調査も入っている。さらに、一ノ瀬美琴という、いつ爆発するか分からない爆弾まで抱えたまま。神経はとっくに限界まで引き伸ばされていた。

今の湊に、不機嫌な女を宥める余裕などない。

「一ノ瀬紗月。今日は本当に、そんなのに付き合う気力がない」

湊はとうとう堪え切れず、手を離した。乱暴に引いたネクタイがだらりと緩む。

「会社に戻れば、...

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