第144章

一ノ瀬紗月は、笠木奥様が名うての難物だと知っていた。しかも今は九条家を倒すことに神経を集中させている。余計な火種は増やしたくない。

「お声がけいただき、光栄です」

紗月は表情を崩さず、言葉だけを柔らかく整える。

「ただ、手元に『深海之息』の続きの案件がございまして。それに個人スタジオの受注も来年まで埋まっております。恐れ入りますが、これほど大切なデザインをお引き受けする余力が……」

笠木奥様はくすりと笑った。断られることなど、想定済みとでも言うように。

「一ノ瀬さん。私の要求が厳しいのは事実。でも、差し出すものも相応よ」

紅茶のカップを持ち上げ、ゆったりと一口。

「デザイン料は...

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