第16章

一ノ瀬紗月は主寝室の扉を素通りし、二階の廊下の突き当たりにある客間へと真っすぐ向かった。

九条湊の足が止まる。いったん下りたはずの心臓が、また乱暴に吊り上げられた。さっきまでの安堵は凍りつき、顔に張りついたまま固まってしまう。

彼は大股で追いかけ、紗月が客間のドアノブに触れる寸前、手首をつかんだ。

「紗月、何してるんだ?」

「古いものを捨てたら、新しい場所に替えるのが自然でしょ」

振り返った紗月の口元には、淡すぎて、ほとんど存在しないみたいな笑みが浮かんでいる。手首をするりと引き抜き、何事もなかったように言った。

「ここ、静かだから」

「静かって……何が騒がしいんだよ」

湊の眉...

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