第17章

一ノ瀬紗月は、精巧に彫り上げられた玉細工のようだった。完璧で、ひび一つない。なのに、どんな光も通さない。

そのとき、不意に九条湊のスマホが震えた。画面に浮かんでいたのは、一ノ瀬美琴の母――一ノ瀬蘭の名前。

湊は後ろめたさを隠すように、反射的にスマホを伏せてテーブルへ叩きつけた。バンッ、と耳障りな音が朝の静けさを裂く。

だが、一ノ瀬紗月はトーストを切る手を止めない。まぶたひとつ上げなかった。

九条湊はひとつ咳払いをすると、スマホを手に取り、足早に離れた場所の掃き出し窓の前へ向かった。紗月に背を向けたまま、通話に出る。

どれほど声を潜めても、その焦りと切迫は空気を突き抜けて伝わってきた。...

ログインして続きを読む