第20章

一ノ瀬美琴は甘えるように彼の腕へ絡みつき、顎をつんと上げると、傍らでおろおろしている使用人を見下ろした。

「なに突っ立ってるの? 私の荷物、全部主寝室に運んで。早くして!」

「主寝室」――その一言は、火薬の導火線みたいだった。

九条湊は反射的に、美琴の手を乱暴に振り払った。

「誰が主寝室に手を出していいと言った」

低い怒声。刃物のような視線が、その場にいる全員を順に切りつける。

「いいか。ここにある一ノ瀬紗月の物は、指一本触れるな。触ったら――出ていけ」

一ノ瀬美琴の笑みが、ぴしりと凍りつく。嫉妬と屈辱がないまぜになり、顔色が青くなったり白くなったりした。

追い出したくせに――...

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