第23章

一ノ瀬紗月は昔から記憶力がいい。大学4年間、学内でそこそこ名の知れた“有名人”なら、本人を知らなくても顔くらいは見覚えがあるものだ。

けれど目の前の男は――整った顔立ちに、氷みたいな冷たさ。近寄るなと言わんばかりの距離感。そのくせ、妙に目を引く。

こんなに目立つ人間がキャンパスにいたなら、埋もれているはずがない。

「あなたのスペックなら、学校で有名になっててもおかしくないのに」紗月は胸の奥の引っかかりを口にした。「でも私……あなたのこと、まったく覚えてない」

「俺、あんまり大学に行かないから」

神谷蓮は感情の起伏を見せない声で言い、箸で麺をひと口分だけつまんで、自分の皿に移した。動き...

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