第42章

九条湊が警察署へ駆け込んだとき、一ノ瀬紗月は取調べ待ちの部屋に座っていた。顔色は青白いのに、表情だけは妙に落ち着いていて――まるで、ここで起きていることが自分とは無関係だと言わんばかりだ。

部屋着姿。柔らかな生地が肌を包んでいるはずなのに、彼女の周囲には氷のような冷気が漂っていた。

湊は大股で室内へ入る。抑えきれない苛立ちと焦燥が、息の端に滲む。

紗月の姿を視界に捉えた瞬間、胸の奥で燃え盛っていた暴虐な火は、ほんの少しだけ鎮まった。代わりに押し寄せたのは、言葉にできない複雑な感情。

信じたい。だが、連日垂れ流される「証拠」と世論の濁流が、疑いの芽を無理やり育ててくる。

「紗月……大丈...

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