第49章

一ノ瀬紗月は、今すぐにでも自分をここから連れ出したいと言わんばかりの彼の様子を眺め、胸の内で冷たく笑った。

こんなことで、全部隠せると思ってるの?

小さくうなずき、渋々同意したような声音を作る。

「……いいよ」

二人で並んで邸を出ると、九条湊が自ら回り込み、彼女のために車のドアを開けた。

エンジンがかかり、車は滑るように九条邸の正門を抜けていく。

そのときだった。紗月のスマホが、ぶるりと震えた。

取り上げると、画面には社員からのメッセージ。

『一ノ瀬社長。一ノ瀬美琴様が先ほど来社されました。株式譲渡契約の署名に来たとのことです』

紗月の口元が、気づかれないほどわずかに弧を描く...

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