第59章

彼女はふいに悟った。たとえ人が隣にいても、たとえこの身に子を宿していても――九条湊の心は、端から自分のものではないのだと。

どれだけ甘えても、どれだけ泣いて縋っても。彼の頭の中で想われ、呼ばれ続けるのは、いつだって一ノ瀬紗月――それだけ。

「どんなに頑張っても、影にすら勝てない」

その挫折感が毒蛇みたいに理性を噛み砕き、じわじわと侵していく。

ホテルへ戻るなり、一ノ瀬美琴はドアを閉め、顔を歪めた。次の瞬間、表情は醜くひきつる。

スマホを握り潰す勢いで掴み、指先が白くなるほど力が入った。

負けられない。絶対に――一ノ瀬紗月なんかに。

一ノ瀬紗月がいる限り、自分は永遠に日の当たらない...

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