第60章

一ノ瀬紗月がこの世からきれいさっぱり消えてくれさえすれば――自分は、本当の意味で「全部」を手に入れられる。

ホテルの部屋へ戻るなり、一ノ瀬美琴は鍵を二重にかけた。顔に貼りつけていた弱々しく可哀想な仮面は、音もなく剥がれ落ち、代わりに歪んだ醜悪さが浮かび上がる。

震える手でスマホを掴み、一ノ瀬蘭へ発信した。

「ママ!」

繋がった瞬間、堪えきれず泣き声が漏れる。

「湊が……一ノ瀬紗月なんかのクズのために、私を殺すって! 目の前で言ったのよ、死体も残させないって! ママ、もう無理……早く、早くやって! 今すぐ!」

『慌てないで』

受話器の向こうの声は冷たく、揺るぎない。

『泣き喚いた...

ログインして続きを読む