第64章

一ノ瀬美琴は言葉に詰まり、次の瞬間にはさらに大声で泣きわめいた。

「みんな、ちょっと魔が差しただけなの! お姉ちゃん、今こうして無事に立ってるじゃない! 実際に何かされたわけでもないのに! どうして少しは大目に見て、やり直すチャンスをあげられないの?」

「実際に何かされたわけでもない?」

一ノ瀬紗月は、とんでもない冗談を聞かされたみたいに鼻で笑った。次いで、視線が刃物みたいに鋭く冷たくなる。

「一ノ瀬美琴。あの廃工場で私が死んで、跡形もなくなって――それでようやく『傷ついた』ってことになるの?」

「わ、私は……そういう意味じゃ……」

美琴は紗月の瞳の底の氷に呑まれ、しどろもどろに...

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