第66章

彼女のその言葉を聞いた瞬間、神谷蓮の瞳に浮かんでいた心配は、諦めにも似た甘い容認へと形を変えた。

彼女がいったん決めたことは、そう簡単には覆らない。なにより――彼は、彼女から「自分を取り戻す機会」を奪いたくなかった。

「……わかった」

神谷蓮は折れるように頷き、机の上の鉛筆を差し出す。

「じゃあ任せる。ただし約束だ。夜更かしはしない。少しでもしんどいと思ったら、必ず手を止めろ」

一ノ瀬紗月は鉛筆を受け取り、口元に淡い笑みを刻む。

「沈社長、ご安心を」

江景公寓へ戻るなり、一ノ瀬紗月は書斎へと潜り込んだ。

広いデスクに画用紙を広げ、頭の中で複雑な線をほどいては組み替える。鉛筆の...

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