第69章

一ノ瀬紗月の口元に浮かんでいた笑みが、すっと薄れる。

一瞥する価値すらない。彼女はそのまま拒否を押し、スマホをマナーモードに切り替えた。

せっかくの機嫌を、あの男に台無しにされたくない。

――けれど、30秒も経たないうちに画面が再び点灯し、メッセージが跳ねた。

『電話に出ろ。神谷グループにいる』

粉のついた手が、ぴたりと止まる。

九条湊が……神谷グループに?

紗月は眉を寄せた。今の九条湊は、触れれば爆ぜる火薬みたいな状態だ。そんな男が神谷グループへ乗り込んで、善意で済むはずがない。

神谷蓮は、彼女を何度も助けてくれた。命を救ってくれたうえに、もう一度デザインの舞台へ立つ機会ま...

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