第73章

九条湊は苛立ちまぎれにネクタイを乱暴に引き緩め、内線の受話器を取った。

「秘書。予備の携帯、すぐ持ってきて」

新しい端末、見知らぬ番号。今度こそ、呼び出しがつながった。

数回のコールのあと、受話器の向こうから一ノ瀬紗月の冷えた声が落ちてくる。

「……どちらさま?」

「紗月、俺だ」

九条湊は自分でも驚くほど声を低くした。媚びるような、ほとんど懇願に近い調子で。

一拍の沈黙。次いで、切られそうな気配。

「待って、切らないで! 紗月、頼む、最後まで聞いてくれ!」

焦りが喉を突く。彼女が指を動かす前に、言葉を重ねた。

「昨夜のことは……俺が悪かった。あんなものを見せるべきじゃなか...

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