第74章

「いやあ、高橋社長。ご丁寧にどうも。この一杯は湊の代わりに、私がいただきますね」

一ノ瀬紗月の足が、ふっと止まった。

わずかに顔を傾け、引き戸の隙間から覗く。上座に座っているのは――九条湊。

その隣には、女が寄り添うように身を預けていた。一ノ瀬美琴。

個室にいるのは、湊が普段つるんでいる御曹司連中と取引先の連中。誰かが面白がって声を張り上げる。

「義姉さん、酒強すぎだろ! 九条さん、隠しとくなら徹底して隠せよ。いつ“奥さま”として正式に迎えるんだ?」

「そうそう。美琴はもう九条さんの子を身ごもってんだろ? 九条奥さまの席、他に誰が座れるんだよ」

持ち上げられて、美琴は頬を染めな...

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