第75章

「九条社長は、火急の海外会議の対応に行かれたんじゃなかったんですか?」

一ノ瀬紗月の声は、氷を噛むほど冷たい。

「九条グループの国際会議って、時間が変わったんですか? それとも、場所が変わったんですか?」

九条湊の瞳に、図星を刺された動揺がちらりと走る。だが、この男の取り柄は、口先と面の皮の厚さだった。

「……今夜の取引先が、たまたまここで席を持っててな。会社の案件で挨拶に来ただけだ。酒の一杯くらい、社長として当然だろ」

強引に平静を装い、すぐさま矛先を紗月へ向ける。

「それよりお前だ。祖母さんと母さんがいる席を抜け出して、男と密会か? 九条家の面目を、どこに置くつもりだ!」

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