第76章

彼女は痛いほどわかっていた。九条湊の心は、もう自分には向いていない。人を引き留められないなら――せめて金だけは取らなきゃ損だ。

一ノ瀬美琴にまとわりつかれて苛立ちが頂点に達した九条湊は、視線の先で一ノ瀬紗月がすでに神谷蓮のロールスロイスの横まで歩いているのを見た。しかも神谷蓮は、当たり前みたいにドアを開けて彼女を迎え入れている。

その光景が、九条湊の目を刺した。

「もういい!」

怒鳴り声と同時に、九条湊はスーツの内ポケットから財布を引きずり出し、カードを一枚乱暴に抜き取ると、一ノ瀬美琴の胸元へ叩きつけた。

「金ならくれてやる! 今すぐ消えろ! 二度と俺に近づくな!」

一ノ瀬美琴は...

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