第77章

一ノ瀬紗月は眉をわずかにひそめ、反射的に身を引いて道を譲った。

だが相手は立ち止まり、逆に彼女の進路を塞いだ。

「よぉ。俺の見間違いかと思ったぜ」

頭上から降ってきたのは、軽薄で、なおかつ悪意に満ちた声。

紗月が顔を上げると、そこにいたのは神谷蓮の従弟――神谷信太だった。

神谷家二房の一人息子。名の知れた放蕩者で、神谷家の看板を盾に好き放題やらかしてきた男だ。蓮が神谷ホールディングスの実権を握っていることが、面白くてたまらないらしい。

信太は紗月を上から下までねっとり眺め、化粧気のないのに妙に目を引くその顔に視線を一周させる。口元に浮かんだのは、隠す気もない嘲りの冷笑だった。

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