第8章

一ノ瀬紗月は、病院に三日だけ入院すると、あっさり退院した。

迎えに来たのは九条湊本人だった。車内には彼女の好きな柔らかいクッションと、ぬるめの湯が用意されている。まるで――何事も起きていないかのように、細やかで、優しい。

だが、屋敷へ戻った紗月は主寝室へ向かわず、そのまま二階のいちばん奥――隅に追いやられたような客間へ歩いた。

「紗月?」

背後からついてきた湊が、眉間に皺を寄せる。

「何をしてる」

「ここ、静かだから」

ベッド脇に小さな荷物を置き、振り返る。浮かべたのは、丁寧で、けれど遠い笑み。

「最近、体調がよくないの。静養したいから……あなたの邪魔はしないわ」

湊の胸が、...

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