第80章

九条湊の表情が、めまぐるしく揺れた。

腕の中で楚々とした顔のまま腹を押さえる一ノ瀬美琴を見下ろし、次いで、少し離れた場所に立つ一ノ瀬紗月へ視線を上げる。冷えた眼差しは刃物みたいで、近づくだけで切れそうだった。

理性ではわかっている。美琴をこの家に入れた瞬間、紗月との間に残っているものは、もう二度と戻らない。

それでも――美琴の平らな下腹に目が触れた途端、九条家に染みついた「跡取り」への執着が、見えない手となって神経を締め上げた。

迷いに迷い、眉間に深い皺を刻んだまま、九条湊はついに紗月へ顔を向ける。声には、情けないほどの懇願が混じっていた。

「紗月……美琴はいま胎が安定してない。ホ...

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