第81章

外へ出た瞬間、一ノ瀬紗月は呼吸まで軽くなった気がした。

ぐちゃぐちゃした人間関係も出来事も、頭の隅からまとめて放り捨てる。ハンドルを握り、そのままクリエイティブパークへ戻った。

スタジオに足を踏み入れた途端、意識は目の前のデザイン画へ一直線に注がれる。宝飾の世界にいるときだけ、彼女は本当の自由と掌握感を取り戻せた。

昼食が近い時間。ガラス扉がそっと押し開けられる。

神谷蓮が入ってきた。仕立てのいいオーダースーツに身を包み、手には上品な弁当箱。足取りは落ち着いていて、無駄がない。

秋の陽が大きな窓から差し込み、広い肩を淡く照らす。冷ややかな輪郭に、柔らかな光の膜がかかった。

「神谷...

ログインして続きを読む