第86章

九条湊の深情など、結局は――自分の身勝手さと強欲さを隠すための、薄っぺらい覆いにすぎない。

いまや証拠は揃った。あとは、刺すべき瞬間を待つだけ。九条湊に、致命の一撃を叩き込むために。

滝尾唱子と別れたあと、一ノ瀬紗月は車を走らせ、クリエイティブパーク内のアトリエへ戻った。

ガラス扉を押し開けると、原石特有の湿り気を帯びた匂いと、金属の冷たい香りがふわりと鼻先をかすめる。

作業着に着替え、例のメモリーカードをいちばん下段の金庫へしまい込む。鍵を確かめてから、作業台の前に腰を下ろした。

それからの一週間、一ノ瀬紗月はほとんど外界を断った。

パリのオートクチュール・ジュエリーデザインコ...

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