第89章

一ノ瀬紗月は背中越しに伝わってくる体温に、胃の奥がぞわりとした。テーブルの下で手のひらを爪が食い込むほど握りしめ、どうにか顔だけは平静を保つ。

「早く会社に行って。今日、国際会議があるんでしょう?」

気づかれない程度に、そっと彼を押し返す。

九条湊は、失ったものを取り戻した熱に浮かされていて、彼女の拒絶に気づきもしない。いくつか念を押してから、意気揚々と家を出ていった。

……

九条ホールディングス、社長室。

九条湊が席に着くなり、秘書の秋丸裕義がノックして入ってきた。手には、黒地に金の箔押しが施された招待状。

「九条社長。神谷ホールディングスからの招待状です。今週金曜の夜、国貿...

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