第90章

江景の見える高層マンション。

「ブブッ――」

一ノ瀬紗月のスマホが短く震えた。

アプリを開くと、九条グループで以前、彼女に助けられたことのある若いアシスタントから、写真とボイスメッセージが届いている。

『奥さま、一ノ瀬美琴がさっき会社に乗り込んできて大騒ぎしました。泣きながら飛び出していって……九条社長、かなり怒ってたみたいです』

紗月は写真を拡大し、画面の中で顔をぐしゃぐしゃにして立ち尽くす一ノ瀬美琴を眺めた。口元に、冷えた嘲りがふっと浮かぶ。

犬が犬を噛む――その手の見世物は、何度見ても飽きない。

九条湊ほど自分本位な男が、表に出せない浮気相手のために、血のにじむ思いで築い...

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