第133章

「もういいわ」

末広贵子はジャケットのジッパーを上まで引き上げ、紅い唇をきゅっと吊り上げた。

「結菜と任務に出るの、懐かしいわね」

相変わらず、切り替えが早い。

「別行動で」

言い終えると同時に、神崎結菜は車を降り、工場棟の北側外壁に落ちる影へと身を溶かした。

午後、あの男から奪った入退室カードをかざす。ピッ、と短い音。ランプが緑に変わり、カチンと閂が外れた。

結菜は扉を引いて滑り込み、廊下へ。人影はない。天井の非常灯だけが、冷たい白で床を照らしている。

午後に撤退したルートを、今度は逆に辿る。非常階段の角を曲がった、その瞬間――背後で、かすかな電子音が鳴った。

ピッ。

...

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