偽物令嬢の逆転劇

偽物令嬢の逆転劇

ひかり · 連載中 · 151.3k 文字

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紹介

「泥棒女め、今すぐこの家から出て行きなさい!」

実の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
病弱な「お嬢様」の生きる輸血パックとして虐げられ、血を搾り取られ続けてきた日々。用済みになった途端、身に覚えのない盗みの罪を着せられ、婚約者からも冷酷に捨てられた。
元家族たちは、私が「貧しい田舎で野垂れ死ぬ」と信じて疑わなかった。

だが、彼らは何も知らなかったのだ。
私が、世界中のVIPが縋る伝説の名医であることも。
私を迎えに来たオンボロトラックが、実は国家機密級の超高級カスタムマシンであることも。
そして、私の本当の実家が、国さえも動かす世界屈指の超巨大財閥だということも!

「今まで苦労をかけたね、私たちの可愛いお姫様」
生き別れていた超過保護な両親と、各界の頂点に君臨する最強の兄たちに狂おしいほど溺愛されるシンデレラライフが幕を開ける!
一方、大切な「命の恩人」を自ら捨てた元家族たちには、破滅へと向かう絶望の後悔タイムが待ち受けていて!?

虐げられた天才少女が本当の愛と富を掴み取る、逆転ファンタジー、ここに開幕!

チャプター 1

実の両親のもとへ引き取られるその日、神崎結菜は三年間暮らした使用人部屋で、わずかな荷物をまとめていた。

扉の向こう、リビングから養母・沢渡恵子の甲高い声が響く。聞こえないはずがないとでも言うように。

「そもそも当時、人を取り違えなければ、神崎結菜がうちで何年もいい思いできたはずないでしょ? さっさと出て行ってくれたら清々するわ!」

「お母さん、そんな言い方しないで」

沢渡詩織の声は柔らかく、どこか笑いを含んでいる。

「妹はこの数年、何度も私に輸血してくれたし、役には立ったよね」

「当たり前でしょ! あんたたちが同じ希少血液型だったから、あのとき私もお父さんも間違えたんだもの!」

沢渡恵子が茶碗を乱暴に置いた音。声には娘を思う痛みが滲んでいた。

「あの子が沢渡家で贅沢してる間、私の大事な娘は外で病気で苦しんでたと思うと……胸が針で刺されるみたいに痛い!」

「もう、お母さん。落ち込まないで。世界トップクラスの名医サルスが、私の変な病気の治療法を見つけたって言うじゃない。もうすぐ治るよ!」

詩織は数言なだめ、わざとらしくため息をついた。

「ただ心配なのは妹。実の両親がすごく貧しいって聞いたの。少しお金を渡したほうがいいかな……餓死なんてされたら、さすがに……」

「何言ってんの! 沢渡家でただ飯ただ住まい、散々得したでしょ。第一、ああいう貧乏人は一度絡みつかれたら離れないの。沢渡家の格が下がるだけ!」

恵子は鼻で笑い、詩織の手の甲をぽんぽんと叩いた。

「詩織は本当に優しいわね。こんなときまであの子のこと考えるなんて。真司、そう思わない?」

「おっしゃるとおりです。詩織は優しくて気配りができる。僕、林川真司が妻にすると決めた人です。林川家の女主人に相応しいのは彼女だけですよ」

林川真司が穏やかに相槌を打つと、詩織が照れたふりで小さく咎める。神崎結菜は扉の内側で、そのやりとりを聞きながら口元を嘲るように吊り上げた。

八年前。沢渡家は林川家との縁談を早く決めたくて、簡単な血液検査だけで、結菜を「失くした娘」だと決めつけた。

彼女と施設の院長がどれだけ説明しても聞く耳を持たず、焦るように沢渡家へ連れ帰った。

だが程なくして、本物の令嬢――沢渡詩織が見つかった。

詩織は外で苦労を重ね、しかも稀な奇病まで患っていた。少しぶつけただけで大出血し、命の危険すらある。

だからこそ、自分という「身代わり」は、彼女の移動式血液パックにされたのだ。

思い至り、結菜は目を閉じる。表情は冷え切っていた。

この数年、沢渡家で受けたのは冷たい視線ばかり。衣食住は使用人以下。

詩織はあの手この手で彼女を弄び、二、三日おきに「具合が悪い」と言って採血させた。直後には笑いながら血袋をゴミ箱へ投げ捨てる。

かつては過保護なほど優しかった真司も、詩織が戻るやいなや婚約をあっさり変更し、陰では何度も「秘密の愛人になれ」と匂わせてきた。

吐き気がした。

だが数日前、実の両親が沢渡家に連絡を入れ、詩織の病にも治療法が見つかった。輸血は不要になった。

そして何より――沢渡家に留まる最大の目的は、すでに果たしていた。

やっと、この家から出られる。

結菜は深く息を吸い、洗い褪せたキャンバス地のバッグを背負って扉を開けた。

リビングの喧騒が、ぴたりと止まる。

真司は反射的に彼女を見た。瞳の奥が読み取れない。

認めたくはないが、神崎結菜には多少の重みがあった。何より、顔が――いやらしいほど男を引き寄せる。

だが、どれほど美しくても沢渡家の本物の娘ではない。賢い選択がどちらかなど明白だ。

結菜が以前、「都合のいい提案」を拒んだときは、やけに清廉ぶっていた。今頃は上流の贅沢から田舎へ逆戻り。後悔で腸が煮えくり返っているに違いない。

真司の目に、薄い得意げな光が走る。

「送ってやろうか? 高級車に乗れるのも、たぶんこれが人生最後だぞ。田舎に帰ったら、どうせ……」

「真司!」

詩織が顔色を変え、こっそり彼の腕をつねる。作り笑いで結菜を見る。

「田舎の貧しい人って、成金嫌いでしょ? 高級車で帰ったら目立って、かえって危ないかも。でも最後に一回くらい味わいたいなら、真司と私で――」

「結構」

結菜は唇をわずかに上げ、小道具でも見るような目で言い捨てた。

「潔癖なの。ゴミ車には乗らない」

真司が固まる。

「……は?」

「日本語が通じない?」

冷笑しつつ眉を上げ、視線を彼の向こうへ滑らせて詩織に落とす。

「ゴミの回収してくれてありがと。宝物みたいに抱えてるあたり、あなたも筋金入りね」

「あなた……!」

真司がようやく理解し、顔が赤黒く染まる。詩織は瞬時に目を潤ませ、弱々しく彼の胸に寄りかかった。

「私たち、心配してあげてるのに……どうしてそんな……」

「詩織がどれだけ気を遣ってると思ってるの? それを罵るなんて!」

恵子が娘の涙に火がつき、爆発する。

「やっぱり田舎者! 骨の髄まで躾がなってない!」

「躾がある人間は、昼間から猿芝居を見せたりしないわよ」

結菜は鼻で笑い、ポケットから硬貨を一枚取り出して恵子の足元へ放った。

「投げ銭。受け取って」

「……っ!」

恵子は顔を真っ赤にし、言葉を失う。

結菜は相手にする気もなく玄関へ向かう。ドアノブに手をかけた、そのとき。

背後から詩織の声が飛んだ。

「待って!」

数歩で追いすがり、すぐに偽りの笑みへ戻る。

「神崎結菜、私のルビーのネックレスがなくなったの。帰るのはいいけど、荷物を見せて。調べさせて」

またこれか。

結菜は冷たく笑い、感情の読めない目を向ける。

この数年、詩織は何度この手の濡れ衣を着せたことか。

案の定、恵子が条件反射のように跳ねる。

「詩織のネックレスを盗むなんて! 貧すれば鈍するってやつね! 今すぐ出しなさい!」

詩織もため息をつき、心底困ったような顔を作る。

「妹、これから大変なのは分かるけど……あれは私の一番大切なネックレスなの。1000万以上するのよ? それでも盗むの?」

そして、慈悲深いふりで続ける。

「でも……姉妹だったんだし、私は責めたくない。今、素直に認めて。怒らないから。お金がないなら、ネックレスをあげても――」

「詩織は本当に度量があるわ!」

恵子が目を吊り上げ、今にも噛みつきそうに睨む。

「自分で出せばいいのよ。ここで荷物をひっくり返すことになったら、みんなの顔が立たないんだから!」

捜させるのが怖いとでも思ってるのか。

結菜は眉を上げ、キャンバスバッグを床に置いた。声は驚くほど淡々としている。

「どうぞ。好きに見て」

詩織は一瞬戸惑ったが、すぐにしゃがみ込んで荷物を漁る。

中に入っていたのは、結菜がバイト代で買った安い服が数枚だけ。沢渡家の物は一つもない。高価なネックレスなど、あるはずもない。

――どうして?

夜明け前、自分の手でバッグの内ポケットに押し込んだはずなのに。

詩織が唇を噛み、苛立ちを隠しきれない。目を転がし、まだ諦めない。

「バッグにないなら、身体に隠してるんでしょ。神崎結菜、早く出して。ここまで大事にしなくても――」

「詩織、何を回りくどいことを」

真司が笑いながら、結菜に視線を貼り付ける。

「身体に隠してるなら、服を脱いで調べればいい。一枚ずつ脱がせれば、必ず出るだろ」

その声に滲む欲望が露骨すぎて、詩織は掌を爪で抉る。

「真司、それは……よくないよ……?」

「何が悪い? 知り合い同士だ。見たっていいだろ?」

真司は軽く笑い、なおも結菜を舐めるように見た。

「神崎結菜、脱げないなら、盗んだってことだぞ!」

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