第百四十四章

金木幸也は防火扉の前にしゃがみ込み、聴診器を扉板に当てて数秒だけ耳を澄ませると、神崎結菜へ小さく頷いた。

次いで取り出したデコーダーを、扉脇の電子ロックパネルへぴたりと貼り付ける。画面の数字が忙しなく跳ね始めた。

三十秒ほどで、錠が「ごとっ」と鈍い音を立てる。金木幸也が扉を、ほんのわずか押し開けた。

神崎結菜は身体を横にして隙間へ滑り込み、靴底が床に触れた瞬間、排水溝の中よりさらに数度低い冷気を肌で感じた。空気には消毒液の匂いと、金属が湿ったような匂いが混じっている。

廊下には冷たい白色の非常灯が点いていた。

左へ折れて二十歩ほど進むと、左手に最初の扉が現れる。電子ロックのパネル脇...

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