第158章

北境作戦開始の四十八時間前。不破家本邸で、不破お婆さんは目を覚ますなり、自分から不破文吾の名を口にした。

「あなたがあの子を送り出したとき、私は止めなかった」

老夫人は遠くの古い槐の木を見つめたまま、悔恨を滲ませる。

「でもね……この何年も、一日だって考えなかった日はないの。あのとき私が止めていたら、あの子はここまで行かなかったんじゃないかって」

不破総一郎は傍の籐椅子に座り、長い沈黙のあとで言った。

「止めなかったのは正しい。あの頃の文吾は、もう道を踏み外してた。ここに残せば、もっとひどいことになってた」

そして、言い聞かせるように続ける。

「お前が昏睡してた間、俺は何度も考...

ログインして続きを読む