第28章 不破代表、装傻の才能がなかなかある

永井敏江は、エレベーターの扉がゆっくり閉まっていくのを見届けると、踵を返して社長室へ向かった。ドアを軽く叩く。

「どうぞ」

神崎結菜はデスクの向こうで書類に目を落としたまま、足音に気づいても顔を上げない。

「行った?」

永井敏江は、矢野真一の署名が入った退職手続きを机上に置いた。

「全社員の目の前で連れていかれました」

神崎結菜は「うん」とだけ返し、書類を一枚めくる。

その淡々とした様子に、永井敏江は堪えきれず口を開いた。

「神崎代表……最初から、あの人が来るって読んでたんですか?」

神崎結菜はちらりと視線を上げる。

「退職届の提出、今日が期限。来ないわけがないでしょ」

...

ログインして続きを読む