第55章 あなたは私が誰か知っているのか?

神崎結菜は一瞬で沢渡詩織の声だと気づいた。けれど瞳の奥に迷いが走り、行くべきかどうか決めかねる。

「見に行くか?」

不破蓮が尋ねる。

神崎結菜は箸を置いた。

「……見ておいてもいいかも」

不破蓮は席を立ち、彼女の椅子を引いてやる。

二人で個室を出ると、廊下はすでに騒然としていた。

支配人が駆けつけては額に汗を浮かべ、平身低頭で謝っている。沢渡詩織は胸元を押さえて床にしゃがみ込み、襟元がびりっと裂け、片方の肩があらわになっていた。涙はぽろぽろ、まさに楚々とした泣き顔だ。

「ひどい……。警察呼びます……」

一緒に食事をしていた中年男は顔面蒼白。スーツは皺だらけで、さっきまで沢渡...

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