第90章

神崎結菜が研究室での作業を終えた頃には、もう二時間が過ぎていた。腹の虫が限界を訴えている。

鞄を手に、宇佐美大平にひと声かけて研究棟を出た。

外はすっかり夜。空の色まで黒い。

近くの店でも探そうとスマホを取り出したところで、ふと思い出す。篠谷教授に「一度、研究室に来なさい」と言われていたのだ。

神崎結菜は時間を確認した。まだ教授は学内にいるだろうか。

少し迷ってから、篠谷教授に電話をかける。

呼び出し音は長く続かず、すぐに出た。受話口から届いたのは、いつも通り穏やかな声。

「終わったかい?」

「はい。篠谷教授、まだ学校にいらっしゃいますか? 今から伺います。ちょうど研究棟を出...

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