第60章

会場は、収拾がつかないほどの混乱に陥っていた。

観客席はざわめき立ち、人々の視線は朱月、紗奈、そして怒りに震える紗世の間を目まぐるしく行き交う。

「静粛に!」

氷のように冷たく、それでいて威厳に満ちた一喝が、瞬時にすべての喧騒を圧し殺した。

林田朝実教授が立ち上がっていた。

彼女は眼鏡を外し、曇った表情のまま、すべてを見通すような灰色の瞳で紗奈を冷ややかに見下ろした。

「そこの……紗奈さん、でしたか。あのお嬢さんが言う通り、原本と、署名時の録画データを提示しなさい。できなければ『進行妨害』とみなし、警備員に退場を命じます」

業界内における林田教授の地位は絶対的であり、その威光に...

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