第86章

朱月は絵を抱えて新浜市現代美術館を出た。入り口から吹き抜ける風が、彼女の体を冷たく撫でていく。

階段の下、街灯が落とす影の中に、手をこすり合わせている人影があった。

「朱月!」

彼女の姿を認めると、紗世が駆け寄ってきた。手には保温マグとカシミヤのコートを持っている。

紗世は朱月が口を開く間も与えず、その肩にコートを掛け、保温マグを手に押し付けた。

「ほら、温かいお茶飲んで。手、氷みたいじゃない」

紗世の声は少し焦っていて、その瞳は心配の色に溢れている。

朱月はマグを握りしめ、掌から伝わる温もりに鼻の奥がツンとした。

美術館で浴びせられた冷遇が、この温かな流れと共に消えていくよ...

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