第92章

そう言い捨てると、大志は紗奈を乗せた車椅子を押し、特別病室へと入っていった。バタン、と重々しい音が響き、扉が無情に閉ざされる。

紗世は廊下で怒りのあまり地団駄を踏んだ。

「あいつ、最低! 人間のクズよ!」

朱月は車椅子の背に身を預け、静かに瞳を閉じた。

怒ってはいない。

本当に、これっぽっちも。

彼女はただ、帳簿をつけているだけだ。

貸し借りの一筆一筆を、鮮明に記憶へと刻み込んでいた。

……

特別病室内。

紗奈はふかふかの病床に横たわり、大志に水を飲ませてもらうという至れり尽くせりの介護を受けていた。

「大志、やっぱり怖いの……」紗奈は甘えた声を出し、上目遣いで彼を見た...

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